新「学習指導要領」ポイント解説

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 2008年3月に告示された新学習指導要領。それに伴い、2009年度より移行措置が実施されます。

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 「変わる」「新しくなる」と、連日さまざまなメディアを通して情報が伝えられていますが、良く分からない・・・結局、何がどうなるのか、どう勉強したらいいのかと悩んでいる方も多いのではないでしょうか。

 そこで、主要5教科の改訂ポイントを絞り込んで、シンプルにまとめてみました。

ご参考にしていただければ幸いです。

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新「学習指導要領」移行措置に向けて、主要5教科の改訂ポイントを探る。

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算数・数学

 

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まず、今回の指導要領改訂によって大きく変わることになった「算数・数学」です。

 

ポイント1 「算数的・数学的活動」

 

最も大きい変化は、言葉や数・式・図などを使って説明するといった「算数・数学的活動」が今回初めて、指導領域として分けて示されたことです。

 

学習指導要領の「目標」も、「算数的活動を通して」(小学校)、「数学的活動を通して」(中学校)という言葉から始まります。

 

これは、得た知識を活用することと、それによって知識を持つことの意味を知ること、そしてそれらによって新しい知識を得ようとする意欲を育てることを目的としているからです。

 

たとえば「三角形の内角の和は180度」を教え、次に「四角形の内角の和は360度」と教えるのが従来の指導でした。

 しかし今回の改訂によって、「三角形の内角の和は180度」を学習した子どもに、『では、四角形の内角の和はいくらになるか。またその求め方を、言葉や数・式を使って考えてみよう』と課題を与え、子どもに考えさせる指導に変わるかもしれません。

 

もう一つの新しい部分と言えるのは、小学1年生から”面積・体積の大きさの比較”といった「数量関係」、中学校で「資料の活用」を加えたことです。これも、実生活で「算数的・数学的活動」を実践するために、重要視している部分といえるでしょう。

 

そして、今回最も重要視されるべき点が「反復(スパイラル)」です。

 

ポイント2 「スパイラル」

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 「知識を使う力」を高めるためには、「知識」をきちんと身についていることが大前提になります。「知識」を身につけることをおこたっていては、「知識を使う力」が高まるはずもありません。

 

現行課程と新課程とを見比べてみると、具体的に習得するべき「知識」が増えていることがわかります。新課程までの移行措置期間で、”学習内容の前倒し実施”が行われるのは、「知識」を身につけさせることを重要視しているためです。

 

これは、各学年で深く習っていく「反復(スパイラル)指導」を行うことで、小学校低学年から、中学3年生までの間に、基礎的・基本的な知識を確実に定着させるためであり、”学び直し”の機会を多く持つためです。すでに学習した内容を、再度取り上げることは、学習内容のつながりを子ども達に感じさせ、知的好奇心・関心を誘う狙いもあるのかもしれません。

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 以上のように、今回初めて指導内容として示された「算数・数学的活動」をとおして、「知識」の定着をはかることと、必要な「知識」を定着させる「反復(スパイラル)指導」が、算数・数学の改訂ポイントとなります。

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平成21年度 学年別・移行措置対象の有無と内容

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〈小学生〉

1年生 追加:○ 削除:×

2年生 追加:○ 削除:×

3年生 追加:○ 削除:×

4年生 追加:○ 削除:×

5年生 追加:○ 削除:×

6年生 追加:○ 削除:×

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〈中学生〉

1年生 追加:○ 削除:×

2年生 追加:× 削除:○

3年生 追加:- 削除:-

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理科

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 第2教科は、こちらも今回の改訂で大きく変わることになった「理科」です。新学習指導要領では、学んだ知識や考え方を実生活で、活用できるようになることを目指しています。そのことが、改訂のポイントとして表れています。

 

ポイント1 「内容の系統性」

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 科学の基本的な知識・技能の確実な定着をはかるために、「エネルギー」「粒子」「生命」「地球」という概念(内容)の柱を軸に、子ども達の発達の段階を踏まえ、小・中学校での内容の一貫性を重視したうえで、多くの学習内容が追加されました。

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 また、子ども達の学び方の特性や、2つの分野で構成される中学校との接続を考慮し、小学校では、現行の3区分(生物とその環境・物質とエネルギー・地球と宇宙)から、2区分(物質とエネルギー・生命、地球)に内容が再構成されます。

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 これによって、下の学年で学んだ・経験した部分が土台となり、上の学年で学ぶ内容を、より理解しやすくなると考えられています。

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ポイント2 「知識・技能の習得」と「その活用力の育成」

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 もう一つのポイントは、「基礎的・基本的な知識・技能の習得」とそれを活用する「科学的思考力・判断力・表現力を育成すること」です。

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 現行の学習指導要領でも、”科学的な言葉や概念”を使用して考えることが重要視されてきました。この流れを受け継ぎながら、自分の考えを明らかにしたり、他者へ説明したりするために、「言語力の育成」も重視されています。

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 そのため、実験・観察の結果の整理には、表やグラフの活用、考察には話し合いやワークシートの活用、さらに考え説明する能力を養うために、レポートや発表を行う学習活動が今まで以上に充実させることが考えられます。

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 このように、理科では学ぶ内容が増え、新しい目標も追加されましたが、大切なのは、「子ども達の科学への関心を高めること」です。

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 そのために、科学技術が日常生活や社会にどのように役立っているのか、豊かにしているのかなどについても指導が行われていきます。これこそが、今回の改訂における理科の最重要ポイントと言って良いのかもしれません。

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平成21年度 学年別・移行措置対象の有無と内容

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〈小学生〉

1年生 追加:- 削除:-

2年生 追加:- 削除:-

3年生 追加:○ 削除:○

4年生 追加:○ 削除:○

5年生 追加:○ 削除:○

6年生 追加:○ 削除:×

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〈中学生〉

1年生 追加:○ 削除:○

2年生 追加:― 削除:―

3年生 追加:○ 削除:×

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外国語活動・英語

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第3教科は、ついに小学校で必修化が決まった「外国語活動」と「英語」です。

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ポイント1 「外国語を使ったコミュニケーション能力の育成強化」

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 新学習指導要領では、「外国語活動」が小学5・6年生で必修化(週1時間)されます。

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 また中学校では、英語の授業数が、年間105時間から140時間へと増加します。これにより、週3時間から週4時間に増加することになります。つまり、義務教育における英語の総学習時間が増えることになります。

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 今回の授業数(時間)の増加は、単なる学習量の増加ということではありません。増えた授業数は、外国語を用いたコミュニケーションを図る活動を、より豊かにするための能力育成に比重を置いています。

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ポイント2 「小学校の外国語活動」

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 小学校の外国語活動では、音声によるコミュニケーション体験が重要視されます。つまり”聞くこと”と”話すこと”が、中心の授業構成になっていくと考えられます。これは、外国語でのコミュニケーション能力の基礎を養うことが目的のためです。

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 そのため、アルファベットなどの文字の指導は極力抑えた、中学校以降の外国語学習を見据えた補助的な指導がメインになります。そのため、指導にあたっては、どのような題材・活動を準備できるかが、大きなポイントになると考えられています。

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ポイント3 「中学校での語彙の増加」

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 中学校では、学ぶ語彙(ごい)が「900語程度まで」から「1,200語程度」へ増えます。これは、授業時間数が増加したことも理由ですが、ポイント1で述べた「外国語でのコミュニケーション能力」を踏まえ、基本的なコミュニケーションをするのに900語では不十分である、という考えが基になっています。

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 また、「既習事項を繰り返して指導し、定着を図る」のもポイントです。繰り返し使うことで、語彙や文法の知識を定着させるとともに、それを実践的に使う力につなげていくことができるからです。

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 中学校では、小学校での外国語活動により、”聞くこと”と”話すこと”に関しては、ある程度の土台ができていると考え、”読むこと”、”書くこと”といった、文字を使ったコミュニケーション活動について本格的に学習していくことになります。

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 つまり、中学校では、従来通りの「読み書き」が重視されることになります。ただし、”聞く”、”話す”ことを、苦に感じないように指導することが求められています。

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国語

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 第4教科は、主要5教科の中心とされている「国語」です。

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 新学習指導要領では、どの教科でも、基礎的・基本的な知識と技能の確実な習得と、それらを活用して課題を解決するために、必要な思考力・判断力・表現力等の育成が、目標となっています。

それらの基本となるのが「言葉の力」で、各教科での言語活動を充実させることと共に、国語がその育成の中核を担う、ということがはっきりと示されました。

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 「言葉の力」とは、日常・社会生活に必要な、相手に応じて適切に「話す・聞く」「読む」「書く」ことができる力です。そこで新学習指導要領では、小・中学校を通して言語活動に関する能力を身につけることが、一層重視されています。

 

ポイント1 「言語活動の充実」

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 まず一つ目のポイントは、現行では「指導計画の作成と内容の取扱い」にあった「言語活動例」が、「内容」に格上げされ、記述も具体化され、必須・重要であることが明確になりました。

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 たとえば小学校では、以前は、「自分の課題について調べてまとまった文章に表すこと」だったところが、「自分の課題について調べ、意見を記述した文章や活動を報告した文章などを書いたり編集したりすること」となったり、「事物のよさを多くの人に伝えるための文章を書くこと」が追加されました。ここでは、「報告」や「推薦」などの目的を持った言語活動が明示されています。

 

ポイント2 「交流」

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 二つ目のポイントは、「交流」についての指導事項が追加になったことです。たとえば「本を読んで、自分の意見を言える」というだけではなく、「ほかの人の感想を聞きあう・交流しあう」ことで、相手の意図をとらえ、その良さを認めて、それを自分の表現に生かすことができることなどです。

 

ポイント3 「伝統的な言語文化に関する指導の重視」

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 三つ目のポイントは、伝統的な言語文化(短歌・俳句、古文・漢文、古典)に親しみ、日本語の言葉の特徴・良さをより理解するための指導が強化されています。

 さらに、漢字指導についても内容が改善されています。現行では中学3年生の指導事項である「学年別漢字配当表に示されている漢字(=小学校で習う1,006字の漢字)を書き、文や文章の中で使うこと」を中学2年生に移し、中学3年生時には「学年別漢字配当表に示されている漢字を書き、文や文章の中で”使い慣れる”こと」としています。多様な語句の形で、また、さまざまな文脈の中で、漢字を使いこなす力が求められています。

 総じて国語では、”基盤となり、目的に応じて使える「言葉の力」を育てるために”、いかに指導するかが重視されていることになります。

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社会

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 主要5教科の最後は、現代を知るために必要とされる「社会」です。社会は、新学習指導要領の「目標」の変化からわかるように、社会の大きな変化に対応して子どもたちが課題解決をしていけるように、新しい現代的な内容をしっかりと学べるようになります。

 

ポイント1 「学習内容の増加と変更」

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 小学校では、一部の内容に、増加・変更があります。たとえば、「47都道府県の名称と位置(小4)」「地域資源の保護・活用(小3・4)」「世界の主な大陸・海洋・国の名称と位置(小5)」「価格や費用(小5)」「狩猟・採集時代の生活(小6)」「国民の司法参加(小6)」などが増えます。

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 中学校でも、歴史・公民で一部、地理では半分以上の内容に増加・変更があります。歴史では、「世界の宗教のおこり」「冷戦の終結」といった世界史に関する内容などが増強され、地理では、現行の学習指導要領で削除された「世界の諸地域の地理」など、世界地理についての内容が戻ってきます。また中3で学習する公民では、「裁判員制度」「文化や宗教の多様性」など、現代の課題についての内容が増えます。

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 今回の増加・変更には、現代の日本や世界について興味を持たせることと、考える力を伸ばすには、最低限の基本知識を抑えておくべき、という考え方があるからだと思われます。

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ポイント2 「変化する現代社会への対応」

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 現在、社会の仕組みが大きく変化をしています。社会の仕組みを理解していないと、年金や今年施行される裁判員制度について、間違った認識を持ってしまうかもしれません。これからは、年齢に関わらず「社会に自ら関わり、持続可能な社会を作っていくこと」が求められます。今回の改訂では、子ども達が主体的に社会参画していくために必要な社会生活に必要な指導が強化されたと考えられます。そのため、授業もさらに多角的・多面的になっていくと思われます。

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 今回の改訂は、新しい学習指導要領で示されている、知識・技能の「習得」と「活用」をバランスよく行うことを反映したものです。さまざまな角度から生活の中の課題を追うことで、社会科の知識・技能を習得し、それらを活用して考え、判断し、表現する力を身につけていきます。

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 たとえば「商品の値段が安くなる」ということに、子ども達が自分で気付くには、「価格や費用」の概念と「品物の価格には、パッケージ代が上乗せされている」という事象が結び付くように指導していくことが求められます。比較・分類など、結びつけるための思考訓練も大事になります。さらに、「なぜ値段が安くなるのか」を理解することが、今後の生活において、「役に立つ考え方」と思えることができて、初めて意味のある学習になります。

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 そのため、「自分で考えて気付く」ことができて、「気付くことが重要である」ことを、子ども達に認識させる指導がポイントになります。

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移行措置~現場の対応は~

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 小・中学校では2009(平成21)年度から、新学習指導要領(小学校は2011<同23>年度、中学校は2012<同24>年度から全面実施)の内容の一部を先取りする「移行措置」が始まります。文部科学省は、移行措置のため、教科書に記載の無い部

分については、”副読本”という形で、学校に配布する計画です。

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 移行措置は、旧学習指導要領から新学習指導要領への切り替えをスムーズに行うために、新学習指導要領の一部を、”前倒し”で実施するものです。今回の移行措置は、2008年3月に小・中学校の新学習指導要領が告示され、翌2009(平成21)年度からすぐ開始されることになりました。告示の翌年度から教科内容の変更に関する移行措置が始まるのは、学習指導要領の歴史の中でも初めてのことです。

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 「ゆとり教育」といわれている現在の指導要領は、約30年間をかけて「学習内容を減らすこと・簡略化すること」を進めてきた結果、できあがったものです。そのため教育関係者の多くは、「学習内容を増やす」という移行措置の経験がありません。これに対し、文科省は、移行措置で先取り実施される理科、算数・数学の新しい内容を”副読本”としてまとめ、全国の小・中学校の担当教員と児童・生徒全員に配布することにしています。

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“副読本”を実際に作成するのは、各教科書会社です。それぞれの学校で使用している教科書に準拠した形の副読本が、教科書会社から各学校に配布されることになります。この”副読本”が実際に学校に配布されるのは、2009(平成21)年度の新学期を迎えてからといわれています。ということは、学校現場では、経験したことのない「学習内容が増える移行措置」を、直前に配布される”副読本”を頼りに実施しなければなりません。

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 現状でも、忙しい・時間がないといわれている教員が、移行措置対応に向け、十分な時間が取れるのかどうか、そこが鍵となります。ひとつ言えるのは、教員のほとんどが経験したことのない「学習内容が増える移行措置」が、問題なく進むかどうかは、”公と現場の準備と協力が必要不可欠”ということです。

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