夏目漱石に「元日を御目出たいものと極(き)めたのは、一体何処(どこ)の誰か知らないが」という書き出しで始まる掌編があります(「正月」)。
新聞社からの依頼を受けた元日掲載のための文章なのに「現に今原稿紙に向っているのは、実を云うと十二月二十三日である」とネタをばらし、「家では餅もまだ搗かない。町内で松飾りを立てたものは一軒もない。
(中略)それにも拘(かかわ)らず、書いてる事が何処となく屠蘇(とそ)の香を帯びているのは、正月を迎える想像力が豊富なためではない。
何でも接ぎ合わせて物にしなければならない義務を心得た文学者だからである」と開き直りつつ、「調子を合せた文章を書こうとするのは、丁度文部大臣が新しい材料のないのに拘らず、あらゆる卒業式に臨んで祝詞を読むと一般である」とへそ曲がりなもの言い。
受験生を筆頭として生徒諸君におかれましては、元日だ正月だなんて漱石曰く「要するに元日及び新年の実質とは痛痒相冒す所なき閑事業であ」り「平凡かつ乱雑なる一日」にすぎぬゆえ、常と変わらず心置きなく勉学に励んで呉れ給え笑
教室長:古田芳郎